未来の化学に関するストックホルム宣言
THE STOCKHOLM DECLARATION ON CHEMISTRY FOR THE FUTURE

ノーベルシンポジウム

2025 年5 月19 日(月)から22 日(木)にかけて、ストックホルム郊外のシグチューナにおいて、ノーベルシンポジウム「Chemistry for Sustainability: Fundamental Advances」が開催されました。本シンポジウムには、持続可能な化学の分野で国際的に活躍する約30 名の研究者が集い、スウェーデンの学術界および産業界から招待された約30 名の研究者と共に、化学研究が持続可能な開発目標(SDGs)の達成にどのように貢献しうるかについて議論が交わされました。日本からは、小林修・東京大学特任教授、野崎京子・東京大学教授、齋藤敬・京都大学教授が招待されました。シンポジウムに先立ち、招待講演者らは「未来のための化学に関するストックホルム宣言」を共同で起草しました。シンポジウム期間中には署名式が執り行われ、デジタル署名のためのウェブサイトも開設されています。


ノーベルシンポジウムの参加者の集合写真
(ストックホルム大学Berit Olofsson教授より頂いた写真をトリミング)

小林教授が署名する様子
(Olofsson教授より)

ノーベルシンポジウムの参加者が署名する際の集合写真
(ストックホルム大学HPより)

ノーベル賞博物館における「未来の化学に関するストックホルム宣言」発表

2025 年5 月23 日(金)、ストックホルム中心部に位置するノーベル賞博物館において、「未来の化学に関するストックホルム宣言」が正式に発表されました。この発表イベントには、先のノーベルシンポジウムの参加者に加え、各国大使館、産業界、行政機関、NGO、メディアの関係者も参加しました。日本からは、小林修・東京大学特任教授、森祐介・在スウェーデン日本国大使館一等書記官が出席しました。「グリーンケミストリーの父」とも称されるイェール大学のPaul Anastas 教授(グリーンケミストリーの12ヶ条の提唱者)は、この宣言策定において中⼼的な役割を果たしました。Anastas 教授は、歴史ある博物館の建物内で宣言の全文を読み上げ、「特別なイベントは特別な場所で開催される」と述べました。


Anastas 教授と署名された未来の化学に関するストックホルム宣言
(ストックホルム大学HP(左写真: Liisa Eelsoo)、LinkedIn(右宣言: ストックホルム大学Oskar Karlsson教授)より)

ストックホルムのノーベル賞博物館での宣言
(ストックホルム大学HPより(写真: Per Larsson))

ストックホルム宣言:未来の化学への提言

「未来の化学に関するストックホルム宣言」は、化学が人類の福祉向上に不可欠であり、これまでもそうであった点を強調しています。しかしながら、化学が意図せず人々と地球に負の影響を与えてきた側面も指摘しています。宣言は、廃棄物の削減に向けて、材料とエネルギーの完全利用、枯渇しない資源の活用、統合システムの構築などを通じて、化学製品の安全性と持続可能性を確保する必要性を提言しています。

この変革を実現するための重要な要素として、以下の5 点が挙げられています。
1. 化学製品とプロセスの設計において、人々と地球への潜在的な危害を削減または排除するという目標を組み込むこと。
2. 速やかな行動の必要性。現状維持や無作為な対応は、変革よりも人々と地球にとってより大きなリスクをもたらすこと。
3. 化学の教育者、学生、実務者が、その活動において健康と持続可能性を考慮できるよう育成されること。
4. 化学に関するデータと情報は、全ての人々にとって十分に入手可能でアクセスしやすい状態であるべきであり、透明性の確保が求められること。
5. 化学産業に関連する政府の政策は、持続可能性と人々の健康と整合していること。

1. The goals of reducing or eliminating harm to people and the planet must be integrated in chemical products and processes.
2. There is need to act now. Inaction and status quo are more dangerous for people and the planet than transition.
3. Teachers, students and practitioners of chemistry need to be trained to integrate health and sustainability in their work.
4. Chemical data and information must be fully available and accessible to all. There is need for transparency.
5. Government policies on the chemical enterprise must be aligned with sustainability and health.

宣言はまた、行動への呼びかけとして、科学者、産業界、教育者、学生、政策立案者に対し、環境を保全・保護しながら、人類の幸福に貢献する解決策を実⾏するために協働するよう促しています。「このビジョンを受け入れることで、化学の潜在能⼒を最⼤限に引き出し、より公平で持続可能で、回復力のある世界を実現することができます。」と結んでいます。

「私たちには化学を変える力がある」

2016 年ノーベル化学賞受賞者であり、フローニンゲン⼤学のBen Feringa 教授は、本宣言の署名者の1 人であり、発表イベントにも参加しました。Feringa 教授は、より良い、より持続可能な世界を実現するためには、化学を学ぶ学生から始める必要性を強調し、「私たちには、未来のために化学を変える力があるのです!」と力強く述べました。


ノーベル賞博物館の外での一場面(左: Feringa 教授、右: Anastas 教授)
(ストックホルム大学HPより(写真: Per Larsson))

ノーベル賞博物館前にて
(左: 小林修教授、右: 在スウェーデン日本大使館・森祐介一等書記官)

宣言への賛同と参加

「未来の化学に関するストックホルム宣言」は、科学者および化学に関わる全ての人々に対し、宣言を読み、署名し、その内容を広めることを推奨しています。



未来の化学に関するストックホルム宣言のロゴ
(宣言HPより)

宣言への電子署名(1: Anastas 教授)
(宣言HPより)

Read the declaration
https://www.stockholm-declaration.org/read-the-declaration

Sign the declaration
https://www.stockholm-declaration.org/sign-the-declaration

Signatories
https://www.stockholm-declaration.org/signatories


注)

日本における「未来の化学に関するストックホルム宣言」の発信元
(東京大学大学院理学系研究科化学専攻のHP(ニュース))


ストックホルム大学のHP(ニュース)
Nobel symposium on Chemistry for Sustainability
Stockholm declaration for more sustainable chemistry

イェール大学のPaul Anastas 教授のHP

宣言についてとPaul Anastas 教授へのインタビュー

フローニンゲン⼤学のBen Feringa 教授のHP

グリーンケミストリーの12ヶ条(American Chemical Society)


東京大学総括プロジェクト機構「グリーン物質変換」寄付講座